「おい!おい!」
突然誰かに呼ばれた。けど誰もいない。
朝、自宅で歯を磨いている最中の出来事だった。
「誰?」
僕は反射でそう言ってしまった。
「ここだよ!こっちだ!」
声が聞こえるほうをみると歯磨き粉しかいない。
まさか・・・と思いつつも声をかけてみた。
「もしかして、君?・・・歯磨き粉?」
「そうだよ!やっと気が付いてくれた!」
気が付くも何も、普通モノはしゃべらない。
その歯磨き粉はだいぶ使われていて、ほとんど中身が残っていない、ぺちゃんこの状態だった。
「俺さ、まだ歯磨き粉残っているんだよ、使ってくれよ」
僕が今日ぺちゃんこの歯磨き粉を使わず、隣に出されていた真新しい歯磨き粉を使っていたからだろう。
歯磨き粉が「使ってほしい」と訴えている。
「使いたいけどさ、僕の力じゃだせないんだよ」
小学1年生の僕の力だと、なにも出てこない。
「じゃあさ、最後にいたずらがしたいんだ。手伝ってくれるか?」
歯磨き粉が僕に指示を出してきた。
僕は「分かった」と言って、歯磨き粉の最後の願いを叶えるために行動した。
数分後。
姉が歯を磨きにきた。
僕は後ろでそっと見守る。
姉がつかんだのは膨らんでいる歯磨き粉。
だがその歯磨き粉は一瞬のうちにぺちゃんこになる。
「もう!中身はいってへんやん!」
姉はぺちゃんこになった歯磨き粉を置き、真新しく膨らんでいる歯磨き粉に手を伸ばし、歯を磨きだした。
いたずらというのはこのこと。
姉は見事に引っかかってくれたのだ。
歯磨き粉は僕を見て、「ありがとう」とつぶやいた。
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